後編のネームも無事完成し、「トムソーヤ」第三章は前編51ページ、後編42ページ、両方ともカラー扉付きで平行して作画作業に入っています。紙面では、この作品始まって以来の季節シンクロ。7月28日(木)発売の「メロディ」9月号から、二ヶ月連続で載ります。
今回は原作の前半の大きな山場、無人島での家出&海賊ごっこのエピソードです。「トム・ソーヤの冒険」と言えばココ、という方も多いのではないかと思うシーン。もちろん自分も大好きなシーンで、ネームにはとても力が入りました。
改めて原作を読み返してみると、無人島の「冒険」エピソード自体は「ストーリー的に」ダイナミックな部分ではありません。かなり速攻でホームシックになっちゃてて笑っちゃうくらいだし、意外と牧歌的です。あくまで、当時のトゥエインが(そして大部分の米国少年が)とても憧れるような様々なエピソードを駄菓子屋の陳列棚のように配置しているような、そんな印象です。あれも、これも、大人にはもうつまらん物であるかもしれないけども、子供にはとても魅力的な宝物の数々に目がくらむような。
このエピソードがなぜ多くの少年の(少なくとも一人の元少年の)心を離さないのかというと、大事なことは一つ。少年のこの時期、自分の街を自分の力で、あくまでレールの引かれてない道を切り開き出て行くという「儀式」の美しさなのだと思うのです。
この、第三章も、今までの章と同じく、しんプレのみんなで打ち合わせをし、プロットを組み上げ、イメージボードを描き、最終的に私が作品としての形にまとめ、監督するという形で作りあげています。もう私だけの「トムソーヤ」ではないし、「あのころ」の自分が読んだトム・ソーヤとはずいぶん違う演出の物語になっています。けれども、ごくごく個人的に、「トム・ソーヤ」は私の少年時代に在るとても大切な思い出で、ごくごく個人的に感慨深く、今回のネームを描きあげました。
中学の頃、「トム・ソーヤの冒険」という一冊の児童文学に影響されて陸上部の仲間とイカダまでつくって天塩川を下った(正確にはイカダが沈没して下れなかった)日々。それまで自転車で行ける範囲以外の「自分の街の外」を知らず、地図を広げて川の流れを追い、この中州で弁当を食べようとか、ココで滝があったらどうしようとか、いらぬ心配をしながら迎えた、あの日曜日の朝に思いを馳せながら…
…つか、はっきり言ってバカだった…。
しん